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特別展『天狗推参!』展観

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いよいよ、年頭より楽しみにしていた天狗の特別展見学である。
http://ch.kanagawa-museum.jp/tenji/toku/toku.html

わくわくしながら展示室に入ると、さっそく恐ろしげな天狗絵馬!
茨城県の阿波大杉神社に奉納された大絵馬で、リアルな表情の大天狗(鼻高)・小天狗(烏天狗)の面がギョロリと目を光らせている。まさに入館者を威嚇するかのような役目を担っているようで、こういうレイアウト構成も展示を見る楽しみである。

さて、本展では主に五つのテーマに依って“天狗とは果たして何ぞや?”と考えさせる資料が多数紹介されている。
第1章「天狗推参! ―中国から天狗がやってきた?―」
第2章「魔界転生 ―外法と習合する天狗たち―」
第3章「天狗のかたち ―鼻高天狗の登場―」
第4章「江戸時代の天狗 ―天狗への眼差し―」
第5章「天狗信仰の広がり ―天狗の民俗的世界―」

展示品リストは以下ですが、一応、私なりに各章の要旨を。
http://ch.kanagawa-museum.jp/tenji/toku/tengu-list.html


第1章は、「天狗」の名がいつどのようなものとして使われたのか、典拠となる中国や日本の文献を紹介。また、天狗の造形の原型となったとされる鳥頭人身の鬼神の姿を絵巻物や彫刻作品に見る。
鬼神の長たるを以って護法・護国神とされた毘沙門天に関する資料が多い。

「是害坊絵巻」の物語のように、鬼神らをも恐れさす元三大師のような法力の僧が出る一方で、堕落した僧侶そのものを天狗とみなすシニカルな視点も早くからあった(天狗草子絵詞)。
文献は『山海経』や『史記』、『日本書紀』『今昔物語』など。
図画資料では、「辟邪絵」(国宝)や「天狗草子」(重文)など。
彫刻は、鞍馬寺から金銅毘沙門天像が四体(全て国宝)。いずれも納経塚から出土した懸仏の仏像で小型だが、鞍馬型毘沙門天像の現存最古の作品でもある。
県内のものは、南足柄市の朝日観音堂から兜跋毘沙門天立像(県重文)。
逗子神武寺の摩多羅神(またらじん)図も。
図画資料が多く、仏像展示ははそれほどではないが、鎌倉長谷寺と平塚光明寺からそれぞれ迦楼羅立像がある。


第2章は、翼を持ち災厄を予言する天狗(あまつきつね)の姿を太平記絵巻などに見る。障礙なす厄神が使役・祈祷の対象となっていくバリエーションとして、荼吉尼天や飯縄権現などを紹介。
中世後期から近世のものが殆どだが「荼吉尼天曼荼羅」「愛宕曼荼羅」「鞍馬山曼荼羅」「刀八毘沙門天像」「飯綱権現像」、などの図画に信仰形態の展開を見る。
また、六字法・飯綱頓早成就法・野狐放秘法といった実践テキストも紹介している。
県内のものは、日吉金蔵寺の荼吉尼天像、八菅神社の役行者及び二鬼像など。


第3章では、鼻高天狗が登場。
神事や芸能に登場する舞楽面、今も行列の露払いの猿田彦として知られる王舞面の姿が異形のイメージとして人々に共有されることで、威高で傲慢なキャラクターが付与されていったとしている。
奈良法隆寺から舞楽面「胡徳楽」「崑崙八仙」、手向山八幡宮から「胡徳楽」と王舞面が出展。いずれも重文。
県内では、鎌倉雪ノ下御霊神社の面掛行列の面が数点紹介されている。


第4章は江戸時代の天狗。
人々の好奇心が表した天狗の考察本、物語や錦絵に描かれた天狗、民間信仰の対象として広まった秋葉権現などを紹介。
書籍は、曲亭馬琴著『烹襍乃記』、児島不求著『秉燭或問珍』、諦忍著『天狗名義考』、市場通笑著・鳥居清長挿絵『珍説女天狗』など。
錦絵は、県博が所蔵する鞍馬山の牛若丸や足柄山の金太郎の物語を題材にしたものを中心に。


第5章は民俗の視点から。
近世から現代も続く天狗信仰のあり方を各地の例を用いて紹介。一見似たような各地の“天狗さま”も、それぞれ独自の教義や信仰形態を持っており、現世利益の中身も異なる。また、必ずしも天狗を対象としているものではない事が分かる。
高尾山薬王院と茨城県阿波大杉神社の例を中心に、奉納品、授与品、御影札(刷物)などを展示。
県内のものは、藤沢清浄光寺(遊行寺)宝物の「天狗の爪」が寺外初公開。津久井城山の飯綱権現御札や大雄山の道了尊御札など。


【展観後感想】
本展には“HERE COMES THE TENGU!―THE VARIOUS IMAGES OF LONG NOSED GOBLIN AND WINGED GOBLIN―”と英題も付いているが、アルファベットの“TENGU”から、みうらじゅんの“テングー”を連想してしまうのは私だけだろうか(笑)。
まじめな話、海外の似たモンスターやクリーチャーを比べてみるのも面白そうである。
毘沙門天も中国止まりでなく、インドのクベーラまで遡った方がその本性が分かりやすかったと思う。

あと、戦乱の世の天狗造形品も紹介できたはず。調伏法や絵巻物類で少しは触れられていたが、2次元的な資料ばかりでなく、武具甲冑類で天狗を造形したものを出せば展示のリズムにも休息点がついたのではなかろうか。

民俗の展示では、天狗関連の地名、伝話や昔話の具体例を幾つかパネルで紹介しても良かったと思う。
第1・2章であれだけバリエーションを広げたのなら、山伏修行や山伏芸能の紹介も欲しかった。その点、第5章の大杉神社関連の展示数はやや多すぎた感がしないでもない。

ともあれ、天狗は稲荷と同じく、手を広げれば際限が無い。
天狗の原型や信仰の歴史を順序立ててコンパクトに(といっても展示数は多いのだが)まとめた構成は大変分かりやすかった。
一つの展示ではこのくらいが調度良いのかもしれない。
マニアはどうせ自分であちこち手を出すのである(笑)。

今回の展示は、国宝や重文を含む200点程の公開。
現在も信仰の対象である秘仏や神宝、個人蔵品などもあるので、普段はなかなか見れないものが多く含まれている。
…であるから、見学というよりも拝観、出開帳参詣の気分で一期一会の展観を満喫させて頂いた。

ミュージアム・ショップに一本歯の下駄や天狗面、大雄山の天狗せんべいまで並べられた光景は愉快だった。
下駄や面は結構高価だ。半ば洒落で置いてるのだろうが、実際買った人はいたのだろうか。
天狗のぬいぐるみはちょっと購買欲をそそられたが、そこはグッと抑えて、図録とポストカード(朝日観音堂の毘沙門様)のみにしておいた。
この手のマニアックな図録は売り切れ必至である。1200円とお得なので、買える時に買うべし。
(今展のポスターは緑いっぱいで気に入っていたのだが、図録の表紙にはなっておらず少し残念)

気がつけば閉館時間。
13時過ぎからずっと天狗様ワールドに浸っていた。
常設展に寄ったのもあるが、こちらは30分程。
幾つかの仏画・仏像には合掌させて頂いたので、博物館のスタッフには奇異に映っていただろう(笑)。
そんな客もまた、今に生きる天狗信仰の一景として寛容に思って頂ければと思うが…。

これだけの品を一堂に会して拝見できたのは眼福であった。
出来れば再度展観したいほどである。


最後に、個人的に興味を引かれ、印象に残った展示品と感想を一言づつ列記しておく(非常に低俗な感想ですが)。

第1章
「辟邪絵(毘沙門天)」(奈良国博)
まさに悪鬼な鳥獣人。弓引く毘沙門天がカッコイイ!

「兜跋毘沙門天立像」(朝日観音堂・神奈川)
ようやく実物拝観が叶った!近郊の仏様なのに横浜でお目にかかるとは…

「諸尊図像集(天等部)」(称名寺・神奈川)
カラフル♪金沢文庫の展示でおなじみ。

「別尊雑記(毘沙門天)」(称名寺・神奈川)
四臂の毘沙門天は珍しい。

「山海経」郭璞注釈・蒋応鎬画 明時代版本(国立公文書館)
挿絵の天狗より、その向かいにいる顔無し四翼のが気になる…

「魔佛一如絵詞」(日本大学総合学術情報センター・埼玉)
狂乱の踊念仏、レイヴパーティーだw 
尼さんが持つ竹筒に一遍さんのアレが~!
こ、これも天狗と言えば天狗か(笑)

第2章
「太平記絵巻(巻二)」(埼玉県立歴史と民俗の博物館)
ご幣振るネズミ(ウサギ?)が結構可愛い

「絵本和漢誉」葛飾北斎挿絵(神奈川県立歴史博物館)
これ版画っ?!て思う程のクオリティ

「六字経(野月)」(称名寺・神奈川)
コワ~!実践したんだろうな…
金沢文庫の『陰陽道×密教』展で初見。
天狐・人形・地狐の三狐式神が後のダキニ天の像様に影響してるのだろうか。この段階ですでに天狐は鳥型(鳶など)と認識されている。

「別尊雑記(六字天)」(称名寺・神奈川)
片足スキップ♪六字明王~ 
マイナー仏なのに、テレビ番組『ほん怖』でおなじみ霊能者の信奉する本尊として有名になってしまったw
本来、調伏や呪詛返しに用いられた本尊さんなのだが…

「荼吉尼天曼荼羅」(大阪市立美術館)
実はこれが一番見たかった!!
思ったより小ぶり。ニッコリ三面ダキニさま!
阪美の荼吉尼天さん、今年は府中市の「お稲荷さん」展に出張したりと東国で大活躍である。

「荼吉尼天像(厨子入)」(金藏寺・神奈川)
寺宝豊富なお寺。こんなのもあったとは。

「晨狐王曼荼羅(摸本)」(村井コレクション・大阪)
精緻!白狐の尻尾の宝珠が三鈷杵なのは、晨狐王(三面ダキニ)の場合だけなのだろうか?

「晨狐王曼荼羅」(村井コレクション・大阪)
横からの描写。中央に聖天さん。本地仏が頭上に。

「愛宕曼荼羅」(南市町・奈良)

「鞍馬山曼荼羅」(鞍馬寺・京都)
天部系の曼荼羅は見てて飽きません。

「青蓮院門跡令旨」(鞍馬寺・京都)
鞍馬寺へ祈雨依頼の令旨。

「刀八毘沙門天像」(熊野神社・山梨)
昆虫みたい!ドゥルガーも混じってるのか?塩山の熊野神社蔵。

「太郎坊権現像」(村山浅間神社・静岡)
実物は初見。高鉢権現とも呼ばれます。
「信貴山縁起絵巻」の剣鎧童子のような颯爽さ。

「野狐放秘法」(個人)
まさに和製エクソシズムのテキスト!
狐霊に憑依された武田信玄息女を救うために会得された秘法を由緒とするという。

「役行者倚像并前鬼・後鬼像」(八菅神社・神奈川)
これも前から拝観したかった。

「役行者倚像」(横浜市立桜岡小学校)
素朴な疑問。なぜ小学校に役行者像?金次郎さんの代わり?


第3章
「舞楽面(胡徳楽)」(法隆寺・奈良)
「舞楽面(崑崙八仙)」(法隆寺・奈良)
緑なので鳥顔というよりカッパみたい…、てかラゴンw
原形の原点を思うと、やはり異人さんが天狗顔のルーツなのか?

「北野天神縁起絵巻」(神奈川県立歴史博物館)
展示の趣旨と関係ないが、武士の甲冑デザインが面白い。


第4章
「烹襍乃記」曲亭馬琴著(西尾市岩瀬文庫・愛知)
中国の鳥獣系天狗から日本の僧侶系天狗まで挿絵が充実

「珍説女天狗」市場通笑著・鳥居清長挿絵(西尾市岩瀬文庫・愛知)
天狗の仲間になった幇間が女を天狗界にかどわかすとするが、逆に遊里でもてはやされ、任務をあっさり放棄する話。鳥居清長の挿絵つき。
読んでみたい。

「足柄山得金時図」五渡亭国貞画(神奈川県立歴史博物館)
まさに怪童・金太郎。カラス天狗もセミ採りの要領で捕まえられる。
鬼退治の渡邉綱よりも、金太郎ママの方が恐ろしげ。

「新板金太郎尽 金時六図」豊丸画(神奈川県立歴史博物館)
金太郎のペットとなり下がった烏天狗。踊りを仕込まれているw

「狂戯天狗之日待」歌川広重画(神奈川県立歴史博物館)
鼻で餅をつく天狗たち


第5章
「笈と天狗面」(大杉神社・茨城)
こんなの見れて感動!
広重の東海道五十三次・沼津にも似た笈が描かれている。

「天狗面(烏天狗)」(大杉神社・茨城)
プレデターじゃ!

「両天狗面絵馬」(大杉神社・茨城)
展示室エントランスで出迎えてくれたギョロ目コンビ。

「天狗の爪」(清浄光寺・神奈川)
サメの歯の化石らしい。狼の頭骨的な利益もあったのだろうか?

「相州小田原道了宮明治四年両国回向院ニテ開帳参詣乃図」歌川広重(三代)画(神奈川県立歴史博物館)
道了尊の江戸出開帳が江戸時代に二度、明治大正に一度づつ。
80年ぶりに行われる今年にはピッタリ♪

「御札(大雄山)」(神奈川県立公文書館)
江戸時代の御影。解説では鼻高天狗としているが、私は嘴だと思う。

「御札(城山飯縄権現)」(神奈川県立公文書館)
津久井城址の飯綱さん。

「天狗面」(個人・神奈川)
大山寺旧蔵の奉納品とのこと。

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